https://ace7.acecombat.jp/
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◆「エースコンバット7」の“攻めた”要素はなぜ生まれたのか。河野一聡氏&下元 学氏に開発の裏側を聞いた
編集部:早苗月 ハンバーグ食べ男
・2019年1月17日のPS4/Xbox One版発売,2月1日のPC版発売から,2月7日にはシーズンパスのティザートレイラーも公開され,
ファンの間では今後への期待がさらに高まっている「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」(以下,ACE7)。
筆者としても大絶賛なものの,本作で果たされた“空の革新”に関しては賛否両論の意見を多く目にするうえ,
筆者自身も「評価が難しいタイトル」ではあると捉えている。本作は“攻めた”設計思想で作られており,
言うなれば「エースコンバットのビッグウェーブ」的なタイトルなのだ。
サーフィンはビッグウェーブなほど面白いが,誰もがビッグウェーブに乗れるわけではない。
本作の評価は,このビッグウェーブに乗れたか乗れなかったかで二分されており,「中庸的かつ客観的な視点」が持ちにくく,
レビューすることが難しい。ということで,エースコンバットシリーズのブランドディレクターである河野一聡氏と,
「ACE7」のプロデューサーを務める下元 学氏に,制作の裏側などを聞いてみた。
なお,「ACE7」のネタバレにはならないように直接的な表現は避けているが,
今回のインタビューの主旨としてゲームプレイやストーリーの展開に言及している。その点はご理解いただきたい。
4Gamer: 本日はよろしくお願いします。 今回,詳しく掘り下げたいのは賛否両論な部分なのですが,まずはストレートに“攻めた”部分として,
「空の美しさ」について聞かせてください。今回の「空の美しさ」は,個人的には絵画の中を飛んでいるかのような気分になったほどでしたが,
あの情景はどのように作られたのでしょうか。
下元 学氏(以下,下元氏): 今回,あの世界を実際の惑星として捉えて,緯度経度を設定しました。
それをもとに「この季節だと太陽の向きや高さはここ」……と割り出して,空気の設定を含めた物理演算を行うと,
あの“空の表情”になるんです。逆に,今までのタイトルでは望む色をパレットから持ってきて落とし込めたんですけど,今回は調整が困難でした。
河野一聡氏(以下,河野氏): 例えば「空を赤くしたい」と思っても,どのように太陽の位置や空気による光の拡散率を設定すればいいのか,
探らなければいけなかったんです。意図した色を出すのが難しいので,エースコンバットの開発で恒例の「空を作る日」が,
今回は無いと思っていたんですが……。
下元氏: あったんです(笑)。
・「ACE7」の空。イギリスのSimul Softwareが開発したUnreal Engine 4向けプラグイン「trueSKY」を利用している
4Gamer: 「空を作る日」というのは,具体的にはどのようなことをされるのでしょう。
河野氏: アートディレクターである菅野昌人の横に僕がついて,空の色を一日中調整します。
下元氏: 当人は「今回は無いだろう」と思っていたそうなんですけれども,僕が「空を作る日」を設けました。
その一日は,開発スタッフ達が遠巻きにしているんですよ(笑)。2人とも独自の感性を持っていますから,そこに巻き込まれると大変なことになるわけです。
僕も2人から離れたところで作業をしていたんですけど呼び出されて。嫌な予感を覚えつつ行ったら,画面に2つの空が映し出されていて。
そして河野に「こっちが俺の空で,そっちが菅野の空だけど,どっちを取る?」と聞かれて……
普通,どっちが誰のものかって先に言わないですよね(笑)。
河野氏: 上司を取るか,仲間を取るか(笑)。
下元氏: 他のスタッフは「また始まったよ……(笑)」みたいな感じで遠くから眺めていて,僕にとっては地獄の一日でした。
そういえば,あのときもいろいろ話しましたが,何を基準にして色の提案をしていたんですか?
河野氏:
「空の色に感動する」まで。だから意見が割れると,下元を呼んで「お前はどっちが感動する?」って聞くんだ。
4Gamer: 詳細は失念してしまいましたが,何かの記事でも“鳥肌が立つまで”だったか,
「感動するまで作り込む」といった旨を河野さんが述べられているのを拝見しました。
河野氏: 基本的にはそれです。空も音楽も演出も,すべて自分の「鳥肌が立つかどうか」で判断するので,そうでないものはやり直しになって……
基準値が見えないから,開発が酷い目にあう(笑)。
4Gamer: ビジュアル面は,汚しの色合いが「ACE COMBAT ASSAULT HORIZON」(PS3 / Xbox 360 以下,ACAH)における
“爆煙やオイルの黒”から,本作では“着氷と乱反射の白”へと,大きく方向性を変えてきたのも印象的です。
河野氏: まず,ゲーム起動時のACESロゴを毎回僕が作らされるという……酷い開発システムがあるんですが。
下元氏: ACESロゴは縁起物なので,必ず河野が作るんです(笑)。
河野氏: あれは「今回はどの方向を向いているのか」という指針でもあるんです。「ACAH」では,鉄錆の雰囲気と崩れたロゴといったイメージで作りました。
「ACE7」では雲をテーマにするというのがあったので,雲の中にロゴがあって,光が差し込みつつ水滴が着いているというイメージですね。
あれにゲームの向かうべきビジュアルのイメージを集約させているので,エースコンバットに携わって長いスタッフは,
ACESロゴのデザインが決まった時点で「今回はそっち方面」ということを読み取って,制作を進めてくれます。
4Gamer: ところでビジュアル的な部分に関して,ちょっとしたネットミームになったJPEG Dogが気になるのですが……
モデルになったワンちゃんがいるということは,やはり写真を取り込んだものなのでしょうか。
河野氏: 写真取り込みではなく動画取り込みです。ただ,非常にお利口な子で,「動くな」って言うとまったく動かなくて,
もとの動画でもお腹の部分が呼吸で動いているくらいでした。
下元氏: 微動だにしないんですよね。でも糸見さん(※)が「取り込んだ」と言っていたので,多少は動いているはずです。
河野氏: ああ,糸見に「ファイル形式,なに?」って聞いたら「JPEGじゃないです」って言ってたね(笑)。
下元氏: 僕が「JPEGなわけないだろ。なにバカなことを聞いてるんだ」って糸見さんに怒られましたよ(笑)。
・動いていないように見えるため,SNSなどで“JPEG Dog”と呼ばれたコゼット王女の愛犬。実は動いていて,JPEGでもなかった
4Gamer: シナリオについては,これまでのエースコンバットはスタンドアロンで完結するようなものでしたが,
今回は旧作の要素がたびたび登場するので,シリーズファンとしては,まずここが“攻めた”スタンスだと感じられました。
河野氏: 「ACE7」もスタンドアロンで完結しているつもりなんですけどね(笑)。
下元氏: 「ケストレルII」とか「ハーリング元大統領」とか,過去作に出た単語がよく出てくるということですよね。
今回は,オーシア対エルジアというシリーズのプレイヤーにも印象深い2つの国の戦いですので,「出てこないとおかしい」ような単語は出すようにしています。
ただ,物語としては「ACE7」というひとつの世界で完結させました。
河野氏: ハーリング以外は全員が新規登場キャラですから。
下元氏: あと,過去作のキャラクターなのは最後にやってくる“彼女”くらいですね。
河野氏: “彼女”も,軌道エレベータの目的を象徴するために出しただけで。ただ,プレイヤーによって受け取り方の温度差が出てしまうのはしょうがないですよね。
一作で完結することから逃げるわけじゃないですが,「ACE7」をプレイして過去の出来事に興味を持って,歴史を紐解いていくのも,
エースコンバットというエンターテイメントの楽しみ方の一部と捉えていいのかな……と思うようになってきました。
僕自身がそういう楽しみ方をしたコンテンツもありますし。
4Gamer: 過去のことはもちろんながら,時系列的には未来の「エースコンバット3 エレクトロ・スフィア」(以下,ACE3)も意識した描写がいくつかありますよね。
ドクター・シュローデルのセリフに名前が出てくるマーサとか,演出的には“connect”とか……。
河野氏: それは下元のせい(笑)。 >>1
下元氏: 今回,シリーズを今まで支えてくださったお客様に喜んでもらいたいという思いで,今までのエースコンバットのつながりを明らかにすることにしました。
どこまでストレンジリアル世界として取り入れるかを開発陣と相談するなかで,独特な立ち位置の「ACE3」も組み込むことが,
長年のファンに喜んでもらえる結果になるんじゃないかという話になったんです。マーサもそうですが,初回限定生産版に含まれる
「Aces at War A HISTORY 2019」を見ていただくと,ちょっとした発見があったりすると思います(笑)。
ストライダー隊のイェーガーもね。
下元氏: 「帰って息子に自慢するとしよう」とか言っている彼も,「ACE3」へつなげた部分です。
河野氏: ただ「ACE3」につなげたせいで,えらい目に合いましたよ。片渕監督(※)に「マーサは何者か」とか説明しなきゃならないわけです。
※脚本を担当した片渕須直氏。エースコンバットシリーズは「ACE7」のほか,「エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー」「エースコンバット04 シャッタードスカイ」に携わった。
代表作は映画「この世界の片隅に」(監督・脚本)やアニメ版「BLACK LAGOON」(監督・シリーズ構成・脚本)など。
下元氏: 登場人物の設定が噛み合わない部分が出てきて,皆で頭を悩ませたりもしました。
4Gamer: 片渕監督が関わってないタイトルについて,どのように擦り合わせていったのかは個人的に気になります。
最後の“彼女”のセリフが,UGSFシリーズ的なギャラクシアン(※)の理念じゃないかと思って驚いたりもしたのですが。
※UGSFシリーズは,「ACE3」や「ギャラガ」,「スターブレード」などの一部バンダイナムコタイトルが,共有するバックボーンに基づいて体系化されたもの。
ギャラクシアンという単語は,同シリーズにおける宇宙進出時代の人類(銀河系人類)を指す。
下元氏: 片渕監督はギャラクシアンに関しては知らないはずです。僕がつなげたのも「ACE3」までなので……
お客様が“その先”まで気持ちをつなげているのは,何となく知ってはいるんですけど(笑)。
河野氏: あくまでエースコンバット公式としてのつながりは「ACE3」までで,UGSFの「ACE3」はまた別の話なんだよね。
“彼女”については,もともと片淵監督との話の中で「宇宙飛行士になりたい」と言っていたりもしましたし。
下元氏: 「Aces at War A HISTORY 2019」には,そのあたりが語られた片渕監督による小説も入ってますので,見ていただければと思います。
河野氏: 「ACE3」をつないだだけでもあれだけ大変だったのに,UGSFまでつないだら何重苦になるんだろう(笑)。
4Gamer: 改めてシナリオの話なのですが,今回はジェットコースター的にシチュエーションを重ねていく構造ではなく,
虚実入り混じった複雑な状況をプレイヤーの読解に任せるような形で,これもまた“攻めた”部分だと感じられました。
河野氏: ……最近,自分でも分かんなくなって来たんだよね。
下元氏: まさに“ハーリングの鏡”(※)ですよ。
※「ACE7」のストーリーにおけるキーワード。簡単に表すと「視点によって解釈が異なる」の意。
河野氏: 最初はシンプルな話だった気がするんですけどね。ファミレスでやった会議では,世界地図があって,雲をテーマにします,
オーシア対エルジアです……ってのはあったかな。おぼろげながら「有人機の落日,無人機の台頭」という話もあったけど,
それが具体的になったのは片渕監督と話し始めてからで。
そこが固まっても「物語の中心とすべきものが何か分からない」と片渕監督が悩んでいて,そこから出たのが“ハーリングの鏡”でした。
下元氏: 視点によって解釈が異なることで混乱が生じるという劇中のテーマが決まってからは,
ストーリー自体も「視点によって解釈が異なる」という作り方になっていきましたね。
そして今,お客様が「ACE7」自体に,いろいろな捉え方を見出してくれていて。
河野氏: 不思議な話だよね。片渕監督は最初からすべて計算づくで,僕らは手のひらで踊らされているのかも知れない(笑)。
4Gamer: 「ACE7」は従来作以上に,プレイヤーの解釈がぶつかりあっている雰囲気は強いですね。
たとえば,コゼット王女の生死に関しても……。実際のところ,あの説はどうなんでしょう。
河野氏: ご想像にお任せします(笑)。 >>1 last-modified: 2021-08-26 06:07:58